2025年のITトレンドを振り返る

2025年のITトレンドを振り返る

今年も、テクノロジーの進化は止まることなく、さまざまな分野で新たな潮流や革新的なテーマが注目を集めました。特に変化のスピードが速いIT業界では、その動向がビジネスや社会全体に大きな影響を与えています。

 

今回のコラムでは、2025年のIT領域を振り返り、話題となったいくつかのキーワードや、今後さらに注目が高まると見られているテーマについてご紹介します。

IT関連のご相談はこちらから

1.2025年の振り返り

2025年も、いよいよ残りわずかです。この1年を振り返ると、特に国内では、未来の社会像を具体化する技術の進展が著しい年となりました。

 

昨年のコラムでも取り上げ、春から秋にかけて日本で開催された大阪・関西万博は、10月に無事閉幕しました。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、空飛ぶクルマの実証実験や最先端医療技術が披露され、来場者に未来への期待を抱かせる場となりました。

 

また、坂口志文氏(生理学・医学賞)と北川進氏(化学賞)のノーベル賞ダブル受賞は、日本の科学力を示す快挙です。この受賞は、基礎研究の重要性を社会に改めて認識させるとともに、受賞対象となった研究が、難病治療や新素材開発など、今後の実社会の課題解決につながることが大いに期待されています。

 

IT分野では、海外AIに続き国産AIが進化を遂げ、医療現場での画像診断支援や、物流課題の解決に向けた自動配送システムの実用化が本格化しました。これにより、社会課題解決への大きな一歩が踏み出された年とも言えます。

 

さらに、次世代通信規格「6G」に向けた国内の研究開発も本格化し、官民一体での実証実験が各地で開始されました。数年後に実現する超高速通信がもたらす新たな社会基盤への期待も、一段と高まった1年でした。

IT関連のご相談はこちらから

2.2025年のキーワードを解説

2-1.生成AI・AI関連ビジネス

2025it_trend_02
  • 生成AIの社会実装

    2025年は、生成AIが社会のあらゆる場面に浸透した1年でした。象徴的な出来事として、ChatGPTの愛称「チャッピー」が新語・流行語大賞にノミネートされ、生成AIが一般層にも広く受け入れられたことが示されました。
    一方、ビジネスの現場でも活用が本格化し、問い合わせ対応や資料作成、企画立案支援など、日々の業務プロセスに生成AIが組み込まれる企業が急増し、全社横断のAI推進体制を構築する企業も現れてきています。最近では、DeNAがAI活用スキルを可視化する方針を示したり、ユニ・チャームが昇進条件にAI関連の資格取得を条件に加えたりと、生産性向上や業務変革の基盤として存在感を高めています。
    こうして2025年は、生成AIが「特別な技術」から「業務を支える存在」へと転換した節目となりました。

  • AIエージェントの進化

    AIエージェントとは、自ら情報を収集・分析し、状況に応じて判断や行動を行う人工知能です。チャットでの質問への回答、業務アシスタントとしての作業、スマート家電の操作など、人間の代わりにさまざまなタスクを自律的にこなします。技術の高度化やクラウド環境の整備により、2023年以降急速に注目されるようになり、生成AIブームと相まって社会実装が進んでいます。
    今後は業務効率化や生活支援だけでなく、金融・医療・教育などの専門分野でも活用が広がる見込みです。2026年以降は、人間とAIが協働しながらタスクを進める自律型AIとして、社会により深く定着していくと考えられます。

  • AIガバナンスの整備

    AIガバナンスとは、AIを安全で公正、そして倫理的に使うためのルールや仕組みのことです。AIが自ら判断・行動する時代になり、偏った学習や誤った判断、プライバシーへの影響などへの対応が社会的に求められるようになりました。
    日本では、2025年5月にAI基本法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が成立し、同年9月に全面施行されました。これにより、政府はAIの研究開発や社会実装を後押ししつつ、安全性や倫理を確保する体制を整えました。内閣府や経済産業省のガイドラインにより、企業や自治体もリスク評価や透明性の確保に取り組んでいます。今後は、自律型AIやAIエージェントの普及に合わせた監査・説明責任の強化や、国際基準との連携がますます重要になるでしょう。

    引用元:
    内閣府:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)

  • 企業におけるAI活用と人材の育成

    企業におけるAI活用は単なる業務効率化にとどまらず、経営判断や新規事業開発、全社戦略の中核としても進展しています。
    三井住友フィナンシャルグループは、社長の視点や性格、社内の知見を反映した回答を可能とした「AI‑CEO」を導入し、社員が法人向けの提案や企画書などを事前に壁打ちできるようにしました。キリンホールディングスでも、12名の「AI役員」が経営戦略会議に参加し、多様な視点から論点を提示し、経営層を支援しています。セブン-イレブン・ジャパンやLINEヤフーでは、生成AIの全社展開や全従業員への活用義務化を進めています。メルカリや電通グループもAIを事業・マーケティング戦略に統合しています。一方、GMOインターネットは「GMO AIブースト支援金」を開始し、従業員のAI活用スキルを育成することでグループ全体の生産性向上を目指しています。大手企業を中心に、AIを使いこなせる人材を育てること、AIを経営や業務に活かす仕組みを同時に整えることで、組織全体の競争力を高める動きが必要とされてきていることは明白と言えそうです。

    一方で、日本国内における生成AI活用率は他国と比べて低調です。令和7年版情報通信白書によると、企業における生成AIの業務利用率は、日本が55.2%である一方、米国は90.6%、ドイツは90.3%、中国は95.8%と、高い水準で普及しています。
    このデータから、日本企業はまだ生成AIの戦略的活用が十分進んでいないことが分かります。今後は単なるツール導入にとどまらず、AIを活用できる人材の育成と組織文化の醸成が、企業競争力向上の鍵となるでしょう。

    引用元:
    総務省:令和7年版情報通信白書

関連コラム

「AIプロンプト設計で成果を10倍にする方法 -構造化思考でAIを真のビジネスパートナーにする実践ガイド-(前編)」

「AIプロンプト設計で成果を10倍にする方法 -構造化思考でAIを真のビジネスパートナーにする実践ガイド-(後編)」

「新たな情報収集方法『AI検索』活用が拡がる理由と各社のサービス特徴とは」

「AIに関する初の国際規格 ISO/IEC 42001(AIMS)とは?」

 

2-2.通信環境や技術の再構築

2025it_trend_03
  • グリーンITとエネルギー効率化

    グリーンITとは、環境への負荷を抑えながら情報技術を活用する取り組みです。生成AIやデータセンター、クラウドサービスの急速な普及により、IT機器やネットワークの電力消費が増え、温室効果ガス排出や地球温暖化への影響が問題となっています。そのため、2025年は「グリーンIT」が改めて注目を集めました。
    具体例としては、省電力サーバーや再生可能エネルギーの活用、仮想化やAIによる運用最適化などがあります。グリーンITはコスト削減だけでなく、脱炭素社会の実現やサステナビリティ経営にもつながります。今後はIoTやクラウド、AI技術と連携し、環境負荷を抑えながら高度な情報サービスを提供する社会の実現が期待されています。

  • 5G Advanced (5.5G) → 6Gに向けたロードマップ

    2025年の通信分野では、5Gの進化版である「5G Advanced(5.5G)」の実装が加速し、6G時代へのロードマップが明確になりつつあります。5G Advancedは、3GPP* Release18を基盤に、さらなる高速通信と低遅延、広帯域化を実現する技術で、産業IoTや自動運転、リモート操作などの実用性を大きく高めます。また、通信とセンシングを融合する新機能や、省電力設計、ネットワークの自律最適化など、6Gの基盤となる要素の実装が始まっています。
    一方、6G向けには、テラヘルツ帯の活用、AI主導のネットワーク制御、高精度センシング、全二重通信技術などの研究が本格化し、各国でテストベッド構築や実証実験が進行中です。2025年は、5Gにおける高度化と6Gの研究開発が同時に進む過渡期であり、次世代の社会インフラ形成に向けた重要な節目と言えるでしょう。

    *3GPP:3rd Generation Partnership Projectの略。移動体通信(携帯電話)システムの技術仕様(標準規格)を策定するための国際的な連携プロジェクト。

  • エッジコンピューティングとCDN(コンテンツ配信網)最適化

    インターネットサービスの高速化と安定性を支える技術として、「エッジコンピューティング」と「CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)」が一段と注目されました。エッジコンピューティングは、データ処理をクラウドだけでなくユーザーの近くのデバイスや拠点で分散して行う仕組みで、リアルタイム性が求められるゲームやAR/VR、遠隔操作サービスなどで特に活用が広がっています。
    一方、CDNは動画や画像、アプリコンテンツを世界中のサーバーに分散配置し、利用者に最も近い場所から配信することで、アクセス集中時でも快適な通信を実現します。2025年には、5GやIoTと組み合わせたハイブリッド型エッジCDNが実証され、企業はECサイトや動画配信サービス、スマートシティのデータ管理などに積極的に導入しました。これにより、ユーザー体験の向上とネットワーク効率化が同時に進み、次世代サービスの基盤として注目を集めました。

  • データセンターの新設ラッシュ

    生成AI、クラウドサービス、動画配信などの利用拡大を背景に、データセンターへの需要が急速に膨らみ、2024年から世界的にデータセンターの新設ラッシュが進んでいます。
    例えば Amazon Web Services(AWS)は、今年メキシコやチリ、サウジアラビア、台湾などにデータセンターを新設しており、国内でもNTTデータが2027年までに1.5兆円の投資を行う予定で、既にデータセンター新設の計画や、液浸冷却技術の活用推進に向けた取り組みを進めています。総務省のデータによると、日本のデータセンターサービス市場規模は、2028年には50兆円超になると予測されています。こうした流れは、AI時代のインフラ基盤としてデータセンターが不可欠になっていることを示しており、今後も拡大と効率化が求められる領域です。

    引用元:
    総務省:令和7年版情報通信白書

  • クラウドからオンプレへの回帰

    近年、かつての「クラウドファースト」の風潮から「オンプレミス回帰」の動きが増えつつあります。大きなきっかけは、コストと運用の「現実」が見えてきたことです。導入時には想定しづらかったデータ転送量やストレージ料金が積み重なり、長く使うほど割高になるケースが出てきています。為替や料金改定に左右されず、独自のサービス要件が重視される場合などは、予算を自社でコントロールしたいというニーズが高まりつつあるようです。

    さらに、この流れを加速させているのが「生成AI」の本格活用です。 膨大なデータを処理するAIワークロードをすべてクラウドに依存すると、推論や学習にかかる従量課金が予想以上に膨らむことが分かってきました。
    また、社内の機密データや顧客情報を外部に出さず、手元のセキュアな環境で安全に処理したいという「データ主権」の観点からも、オンプレミス環境が見直されています。また、サイバー攻撃が増加する中で、クラウド提供されている企業との契約では充足せず、セキュリティ要件を独自に設けて運用しなければならないといった事例もあるようです。特に、機密性の高い情報を扱う金融や医療などの業界ではそのニーズが高まっているようです。それぞれの特性を見極め、オンプレミスとクラウドを賢く使い分ける、そんな「適材適所」のハイブリッドな考え方が主流になりつつあります。

2-3.サイバーセキュリティ対策

2025it_trend_04
  • フィッシング詐欺およびランサムウェア攻撃の激化

    2025年のサイバーセキュリティ分野では、フィッシング詐欺およびランサムウェア攻撃の高度化が顕著であり、被害の規模が拡大しました。上半期のフィッシング報告件数は前年同期比で約1.9倍に達し、特に3月にはボイスフィッシング(Vishing)による法人口座への不正送金、春には証券会社を騙る事案が急増しました。

    中でも注視すべきは、ランサムウェア攻撃によるシステム障害の「長期化」と「サプライチェーンへの波及」です。9月に発覚したアサヒグループホールディングスの事例では、VPN機器の脆弱性や認証情報の管理不備が侵入経路として指摘されています。この攻撃により受発注・在庫管理システムが停止し、発生から2ヶ月以上が経過した現在も、システムの完全復旧に至っていません。同時期のアスクルへの攻撃事例と同様、一企業のシステム停止が医療現場や国民生活という社会インフラ全体の可用性を損なう結果となりました。また、株価の低下や決算の延期など、コーポレートブランディングの視点からも非常に影響の大きな事例であったと今後も位置付けられることでしょう。

    IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025」においても、ランサムウェアは組織の脅威第1位となっています。攻撃によるダウンタイムが数ヶ月に及ぶ現状を鑑みれば、防御の強化はもちろん、侵入を前提としたレジリエンス(回復力)の強化が急務と言えます。

    引用元:
    警察庁:令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
    IPA:情報セキュリティ10大脅威 2025

  • サイバーレジリエンスの重要性再認識

    上記のようなフィッシング詐欺やランサムウェア攻撃の高度化に伴い、企業や組織に求められるのが「サイバーレジリエンス」です。サイバーレジリエンスとは、攻撃を完全に防ぐだけでなく、被害発生時に迅速に業務を復旧し、影響を最小化する能力を指します。攻撃を完全に防ぐだけでなく、攻撃を受けることを前提とした「予測、抵抗、回復、適応」の能力を高めることが重視されます。組織全体の運用や体制、教育、バックアップ、復旧計画を統合的に整備することが重要です。

    一方で、「ゼロトラスト」はアクセス権限や認証を厳格に管理し、攻撃を未然に防ぐことを重視する考え方です。両者は対照的ですが補完関係にあり、ゼロトラストで侵入を防ぎつつ、万が一の侵害時にはサイバーレジリエンスで被害を抑える体制が理想です。具体的には、異常検知AIの導入、クラウドやエッジでの冗長化、定期的なサイバー演習やバックアップ体制の整備などが有効とされています。攻撃手法の高度化に対応するため、ゼロトラストとサイバーレジリエンスの両輪で防御・復旧体制を構築することが、企業経営において不可欠な戦略となっています。

関連コラム

「今、セキュリティ強化は最重要課題!認証技術の最前線」

「ECサイトで診断の義務化も!?増加するサイバー攻撃からビジネスを守る」

 

2-4.私たちの身近な生活環境への影響

2025it_trend_05
  • 大阪・関西万博

    2025年4月から10月に開催された大阪・関西万博では、最新技術を体感できる実証の場として、非常に意義深いイベントとなりました。会場では未来のモビリティやロボティクスの展示が注目を集めました。

    交通分野では、空飛ぶ車はデモ飛行を通じて都市部の次世代交通の可能性を示し、会場内では自動運転の電気バスが走行し、公共交通における自律走行の実運用のイメージを具体化しました。ロボティクス分野では、四脚歩行ロボットCORLEOが展示され、将来の不整地移動やオフロードモビリティのビジョンを提示。また、飲食エリアでは配膳ロボットが稼働し、人手不足解消や業務効率化の可能性を示すとともに、大阪ヘルスケアパビリオンではロボットが注文からジュースの作成・提供まで自動で行うなど、将来のロボティクスの実用化を楽しみながら体験できる展示も行われました。
    大阪・関西万博は、単なる展示イベントに留まらず、モビリティやロボティクス、サービスオペレーション、サスティナビリティなどの次世代技術の社会実装を考える上で、企業や技術者に貴重な示唆を与える場となりました。


  • 量子コンピューティングが理論から実用へ少しずつシフト

    量子コンピューティングは長らく理論段階の技術と見られてきましたが、2025年には実用化への動きが着実に進んでいます。量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかる計算を高速で処理できるため、材料開発やAI学習、最適化問題など幅広い分野での応用が期待されています。
    実際に、コーセーは量子コンピュータを活用し、1,000億通り以上の成分と配合量を探索した化粧品処方を開発。2025年5月にはこの技術で計算したクレンジング美容液を発売し、量子コンピューティングの実用化の一例として注目を集めました。こうした事例は、量子技術が単なる研究テーマから、具体的な商品開発や産業応用へと少しずつシフトしていることを示しています。今後も、量子計算の高速性を生かした実務的な利用が広がり、産業界や社会における影響力が増していくことが期待されています。

    引用元:
    株式会社コーセー:毛穴角栓を、溶かし崩す。 世界初、量子コンピュータを用いて計算した化粧品処方 “クレンジング美容液”を発売

  • 自動運転技術の進歩

    2025年、自動運転技術は実験フェーズから社会実装の段階へと移行しました。各社の取り組みにおいても、実環境での運用を前提とした動きが活発化しています。テスラは、日本国内の公道における実証走行を開始しました。同社のFSD(Full Self-Driving)は、LiDARなどの高額なセンサーに頼らず、カメラ映像とAI学習のみで判断を行う点が特徴です。日本特有の道路環境におけるデータ収集を進め、国内での機能実装に向けた準備を加速させています。
    一方、トヨタ自動車は、静岡県裾野市の実験都市「Woven City(ウーブン・シティ)」を一部開業させました。実際に住民が生活する環境下で自動運転EV「e-Palette」を運行し、車両単体ではなく都市インフラと連携したモビリティの検証フェーズに入っています。2025年は、技術検証にとどまらず、実際の交通社会への適合性が問われた1年となりました。

  • 生成AIショッピング

    生成AIショッピングとは、AIが対話を通じてユーザーの要望を分析し、最適な商品の提案や購入サポートを行う仕組みです。Amazonの「Rufus」やYahoo!ショッピングの「お買い物AIアシスタント」の実装により、曖昧な要望を自然言語で汲み取るコンシェルジュ機能が身近なものとなりました。「生成AIショッピング」が日経トレンディ「2026年ヒット予測ベスト30」で第4位に選出されたことからも、社会実装の加速がうかがえます。購買行動が「検索」から「AIへの相談」へとシフトする中、企業には従来のSEOに加え、AIの回答アルゴリズムに適合させる「GEO(Generative Engine Optimization)」という新たな戦略が不可欠となるでしょう。

    引用元:
    株式会社日経BP:2026年の流行を日経トレンディが大予測

  • 「2025年の崖」どうなった?

    かつて「2025年の崖」という言葉が、多くのIT現場を駆け巡りました。レガシーシステムが足かせとなり、DXが進まなければ巨額の経済損失が生まれる。2025年も暮れようとしている今、振り返ってみると、システムが一斉に停止するような劇的な「崖からの転落」はあまり目立ちませんでした。しかし、これは回避できたわけではなく、「先延ばし」になっているのが現状です。複雑化したブラックボックスなシステムは依然として残り、SAPなどのERP移行プロジェクトも、「延長戦」を戦い続けている企業が少なくありません。

    特に多くの企業が直面しているのは、「人材不足の深刻化」です。レガシーなシステムを保守できるベテラン層の引退と、DXを推進する人材の不足、この二重苦が、企業の体力を着実に奪っています。2025年は、何かを乗り越えたゴールではなく、技術的負債と人材不足という「慢性的な課題」とどう付き合っていくか、その覚悟が改めて問われた1年だったと言えるでしょう。

関連コラム

GEOとは何か?生成AI時代のマーケティング戦略

3.2026年の動向予測

2025it_trend_06

ここまで、2025年の動きについていくつか取り上げながら振り返ってきました。ビジネスや私たちの生活において、生成AIはもはや「目新しいツール」ではなく「当たり前のインフラ」として定着し、人が指示を出す対話型から、AI自らが判断して行動する「エージェント型AI」へと活用ステージが劇的に進んだ年となりました。

そして今年も、Gartner社の「2026年の戦略的テクノロジ・トップ・トレンド」が発表されています。具体的にどのような変革が予測されているのか、注目のポイントをいくつかピックアップしていきます。

  • AIネイティブ開発プラットフォーム

    AIネイティブ開発プラットフォームとは、AIを開発プロセスの単なる「補助」としてではなく、システム構築の「中核(エンジン)」として据えた次世代の開発基盤を指します。人間が自然言語で「何を作りたいか」を指示するだけで、AIがアプリケーションの設計からコーディング、テストまでを自律的に実行します。これにより、エンジニアの役割はコードを一から記述する作業から、AIが生成した成果物の品質を監督・評価する「アーキテクト」的な立ち位置へとシフトします。高度なプログラミングスキルへの依存度が下がることで、開発サイクルは極限まで短縮され、ビジネスのアイデアを即座に機能として実装することが可能になります。

    Gartner社では、2030年までに、AIネイティブ開発プラットフォームによって、80%の組織が大規模なソフトウェア・エンジニアリング・チームを転換させ、AIによって増強され、より小規模で敏捷なチームへと進化させるようになるとみています。

  • マルチエージェント・システム

    マルチエージェント・システムとは、異なる専門性を持つ複数のAIが相互に連携し、共通の目標を達成する仕組みです。例えば、顧客対応業務において、「問い合わせ内容を分析するAI」、「在庫や仕様を確認するAI」、「回答メールを作成するAI」がそれぞれの役割を分担し、チームとして自律的に処理を完結させます。単一のAIでは対応が難しい複雑なワークフローでも、人間が介入することなく自動化が可能になります。

  • ドメイン特化言語モデル

    ドメイン特化言語モデル(DSLM)とは、特定の業界や業務領域に限定したデータを用いてトレーニングされた言語モデルを指します。広く浅い知識を持つ汎用的なモデルとは異なり、医療、金融、法律、あるいは各企業独自の社内規定など、特定のコンテキスト(文脈)を深く学習させている点が特徴です。これにより、汎用モデルで課題とされていた専門用語の誤解や、事実に基づかない回答(ハルシネーション)のリスクが大幅に低減されます。企業は、自社のコンプライアンスや厳格な業務ルールに則った高精度な回答を得られるようになり、より専門性の高い実務領域においても、AIの導入と自動化が加速すると期待されています。

    2028年までに、企業が使用する生成AIモデルの過半数がドメイン特化型になるとGartner社ではみています。

  • 先制的サイバーセキュリティ

    先制的サイバーセキュリティとは、攻撃を受けてから対処する従来の「受け身」の防御ではなく、AIを活用して脅威を未然に防ぐプロアクティブなアプローチです。
    具体的には、AIが攻撃の予兆を検知して自動的に遮断したり、攻撃者を欺くための囮(おとり)を用いて侵入を妨害したりします。これにより、攻撃者の行動を先回りして無力化することが可能になります。サイバー攻撃が高度化する中、被害発生後の事後対応だけでは限界があります。今後は、攻撃される前にリスクを排除するこの「予測型」の防御体制への転換が、企業のセキュリティ対策のスタンダードとなっていきそうです。

  • ジオパトリエーション

    ジオパトリエーションとは、地政学的リスクの高まりを背景に、データやアプリケーションをグローバルなパブリッククラウドから、自国の「ソブリン・クラウド*」や地域のデータセンターへ移設する動きを指します。従来の利便性重視のクラウド利用から、データの保存場所を物理的に国内へ戻し、厳密に管理する方針への転換です。これにより、各国の複雑な法規制への準拠が確実となり、ガバナンスが強化されます。

    不確実な世界情勢の中、データの所在を自社のコントロール下に置くことは、コンプライアンス遵守だけでなく、顧客やステークホルダーからの信頼維持に直結する重要な戦略となります。

    *ソブリンクラウド:自国の主権範囲内でデータの保管・運用が完結するクラウド基盤のこと。

  • デジタル属性

    デジタル属性とは、データ、ソフトウェア、AI生成コンテンツなどの「出所」や「完全性」を証明する能力を指します。AIによる生成物が急増する現在、それらが誰によって作成され、改ざんされていないかを検証する仕組みが不可欠になっています。
    具体的には、電子透かしやソフトウェア部品表(SBOM)などの技術を用い、デジタル資産の来歴をサプライチェーン全体で管理します。これにより、サードパーティ製品やオープンソース利用時の透明性が担保されます。著作権リスクやセキュリティ上の懸念を払拭し、コンプライアンスを遵守した安全なシステム構築が可能になります。

引用元:
ガートナー:「2026年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドを発表」

IT関連のご相談はこちらから

4.まとめ

2025年の振り返りから2026年の予測を通じ、技術トレンドの潮流が大きく変わりつつあることが見えてきました。依然として生成AIが話題の中心にありますが、その関心は「どう使うか」という段階から、AIが自律的に動く「AIエージェント」や、安全な運用を担保する「セキュリティ・ガバナンス」といった、より高度なフェーズへと深化しています。

今回取り上げたキーワードは、一過性のブームではなく、今後も企業の競争力を左右する重要な要素として定着していくと考えられます。これらの技術がビジネスにどう直結し、価値を生み出していくのか、その具体的な展開に今後も注目が集まります。

サービスページはこちら

お問い合わせはこちら

 

執筆者

株式会社クロス・コミュニケーション編集部

Cross Communication 株式会社クロス・コミュニケーション編集部

株式会社クロス・コミュニケーションのコンテンツ編集部。 アプリ開発やWeb開発に関するナレッジやIT業界のトレンド情報などをご紹介しています。